眠れるクジラ a sleeping whale
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A sleeping whale, Lamelara, Indonessia.
初めて海中で遭遇した鯨はナガス鯨だった。ある取材の途中、海上でナガスの姿を見かけた私は、バタフライのような豪快なフォームで泳ぐナガスの前方にボートで先回りし、スノーケルひとつで海中に飛び込んだのだった。50トンの巨体がぶちあたるのではないかと、なかば恐怖におののきながら海中で目を凝らすと、プランクトンで白く濁った海中に、その体が突然姿を現した。斜めに横切っていく黒い物体は、視界に端から端まで捉えられないほど巨大で、圧倒されるという言葉だけでは表現できないほどだった。なにか得体のしれない大きな存在が、突然目の前に現れ、すべてを呑み込んでいく。鯨ほど神秘的な生き物は他にないというが、そのときの衝撃は、後に長い時をかけて咀嚼することになる。
その4年後、インドネシアのレンバタ島で原始鯨漁を取材した際に、波打ち際まで曳航されたマッコウ鯨の側まで潜る機会があった。鯨は目を瞑り、大きな体を波に揺られながら、まるで眠っているかのように安らかだった。太古からの鯨の民であるレンバタ島ラマレラ村の言い伝えでは、鯨はもともと水牛で、海に迷い込んで鯨になったという。だから陸に曳くときにも、お帰りなさいと漁師は歌う。この伝承は生物学とも一致する。もともと羊蹄類だった鯨の祖先は陸から海に帰り、海のほ乳類となった。生物の起源をたどれば、海で誕生した生物がやがて陸に上がり、霊長類にまで進化を遂げる。しかしなぜ鯨類だけが海に帰ったのか、これは進化論の謎である。長い永い時を経て、とうとう陸に帰ってきた鯨。波に漂う鯨に触れながら、その永い旅路を思わずにはいられなかった。
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