「氷の回廊」 ノートブック 1
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「いつかきっと、エンジニアになるんだ」
一二歳になるタムチョスは、村の小学校の五年生。生まれてから、ただの一度もリンシェ村の外に出たことがありません。なぜならリンシェ村は、隣村でさえ三日もかかるほど周囲を高い峠に囲まれた、ヒマラヤの奥地にあるからです。
タムチョスの夢は、大きくなったら自動車のエンジニアになることです。けれど、生まれてから、ただの一度も自動車を見たことがありません。自動車という言葉も、学校の教科書で初めて知りました。同級生のほとんどが、自動車や汽車はおろか、自転車すら知らない子どもたちなのです。
リンシェ村の子どもたちの多くは、村の外を知りません。テレビも電話もないこの村では、学校で習うことだけが唯一、子どもたちの知識のよりどころなのです。良くも悪くも、村の中だけで世界が完結しているのです。そう、あとは空想の世界が広がっているだけです。
四方を五〇〇〇メートルを超える峠で囲まれたリンシェ村では、昔ながらにヤクを飼い、麦を育る、とても素朴な生活です。タムチョスも仕事を手伝わなければ、家族が暮らしていくことは出来ワせん。タムチョスは、毎朝、ロバを家畜小屋から牧草地に連れていくのが役割です。週に一度は、ヤギたちを峠の近くまで、丸一日かけて連れてゆきます。
家に戻ると、仏間の水を取り替え、ツァンパの朝食です。朝食を終えると、急いで、もうボロボロになってしまった教科書をバックに放り込みます。
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